映画『クレッシェンド 音楽の架け橋』を観て。
紛争中のパレスチナとイスラエルから若者たちを集めて平和を願うオーケストラを作る、というストーリーで、これは実在するオーケストラ「ウェスト=イースタン・ディヴァイン管弦楽団」がモデルになっていて、なんとあの有名な指揮者バレンボイムが作ったオーケストラだそうです。
そのあらすじを聞いた時からとても興味深く、是非観てみたいと思いました。私は安直に、音楽の力は敵対する国の人々をも一致団結させる…という映画かなと思っていましたが、そんな単純な生優しい話ではありませんでした。それぞれが抱える相手の国への憎しみはとても根深く、とても一緒に音楽を作り上げられる状態ではなかったので、まとめ役の指揮者は一人の人間として皆を向き合わせようと、とことんディスカッションさせます。そのため演奏シーンは少なめでしたが、パッヘルベルの『カノン』を演奏するシーンがあり、同じ旋律を追いかけるのに全く協調せず演奏するその音楽性の違いが絶妙でした。演奏シーンは演奏家として、どうしても弾き方に注目してしまいますね。主人公の2人のヴァイオリニストの役者さんは、ヴァイオリン初心者の方みたいですが、楽器の持ち方がとってもきれいで、すぐ弾けるようになりそうだなと思いました。他の楽団員の人たちは、本当に演奏できる方が結構沢山いて、「あ、この人ほんとに弾いてる」と見つけるのが楽しかったです。そして、ようやく皆の心が一つになってきたと思った時に悲劇が起きます。それも民族の壁を越えて愛し合ったカップルのせいという皮肉な事件で。
やり場のない悲しみは結局また民族間の憎しみへ転嫁され…。
それでも、最後に演奏されるラヴェルの『ボレロ』には、二つの民族が音楽を通して本当は分かり合えていた事、これからも一つになれる可能性がある事が伝わってきて、『ボレロ』という曲の特質が、この映画の主題に見事に重なり感動しました。ラヴェルの『ボレロ』は最初から最後まで同じリズムの上に同じメロディーが繰り返されるのですが、最初はスネアドラムのリズムだけで小さく小さく始まり、少しずつ演奏楽器が増えていきます。増えながらどんどん音量も大きくなっていき、最後は大音量で華々しく終わります。
映画のタイトル『クレッシェンド』(だんだん強く)はここからきていたのですね。
この曲は本当に名曲だと思います。同じメロディーが繰り返されるだけなのに、色々な楽器が加わっていく事で音色が変わりどんどん高揚していきます。そして最高潮に達した最後の最後で初めてメロディーが変化する瞬間が鳥肌が立つほどカッコ良くて大好きなのですが、その明るい響きは決してハッピーエンドではない映画に希望を感じさせるようでした。
そして私自身、今の平和な日本の良い環境で音楽を演奏させてもらっている事は、当たり前の事ではなくて、本当に有り難く幸せな事なのだと、感謝の心を新たにしました。
(『クレッシェンド 音楽の架け橋』© CCC Filmkunst GmbHは1月28日金曜日、全国公開です。)
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